桔梗長兵衛によるブドウ栽培(その2)
「牛橋でブドウを栽培してブドウ液を作り首都東京で販売する。」という構想の実現を目指すことにした長兵衛は、明治34年(1902年。長兵衛29歳)、牛橋に入植し荒地の開墾に着手しました。ブドウ液の製造・販路などでの課題は山積したままですが、開墾・樹園の育成を進めながら考え、準備を進めるつもりでした。明治35年(1902年、長兵衛30歳)、彼はコンコード種(葡萄酒やブドウ液への加工に適した品種)のほか22種のブドウの苗、3000本を植栽しています。 (山元町教育委員会編「山元町ふるさと地名考」より)
東京での販売活動の展開
大正時代(1912年~)に入り、ブドウの収穫・ブドウ液の生産が始まりました。販売の準備は既に始めていましたが、なにせ東京の人には知られていない山下村の物産です。販売活動は困難を極めました。そのうち大阪の『葡萄酒の寿屋』(サントリーの前身)との接点ができました。寿屋は、葡萄酒製造所増設のためブドウ生産地をさがしていました。長兵衛は寿屋に牛橋を紹介し牛橋進出に協力しました。そのためか、ブドウ液の皇室への献上と、海軍への納付が実現しました。皇室への献上や海軍への納入は、世間の商品や生産者についての安心・信頼が得られます。ほどなく三越に納めることができました。以後、横浜などの都市にも販路が開けました。長兵衛によるブドウ栽培・ブドウ液生産が成功したことから牛橋でのブドウ生産者が増え、さらには花釜・浜吉田方面でも葡萄生産者が増えました。昭和に入ると笠野や新浜方面にも拡大しました。花釜・牛橋でのブドウ液生産者も10軒前後できました。こうして亘理郡は、東北1のブドウ産地になりました。
戦時中も伐採をまぬがれたブドウ園
昭和6年に満州事変が起り、昭和16年には、太平洋戦争に発展しました。その間も、葡萄は抜かれることはありませんでした。それで1945年8月の敗戦後も継続してブドウは収穫できました。食糧の配給制が敷かれ、甘いお菓子など食べることのなかった戦後の時期、ブドウは貴重でした。亘理郡は相変わらず、東北地方第一のブドウ栽培地でした。この状態は、1960年頃まで続きました。その後のブドウ栽培衰退の経緯は前月号の通りです。
丘陵地帯でのリンゴ栽培
1960年、池田内閣は、経済の高度成長を支えるために、農業生産面では果樹・畜産部門の成長に力を入れることにしていました。それで、山元町においては阿武隈高地の麓の丘陵地区でのリンゴ団地の形成に力を入れることになりました。その結果、1965年頃から、八手庭・大平・鷲足・浅生原・高瀬・真庭・久保間・中山などに、リンゴ園の集中する地区『リンゴ団地』が造成されることになりました。国は、消毒用の大型農機である「スピードスプレア」の共同購入などを支援するなどの施策を実施しました。こうして山元町では、リンゴを作付けする農家が1970年頃まで増えました。品種は秋に収穫するスターキング・ゴールデンデリシャスが中心です。ほかに、多くはありませんが、朝日などの早生種がありました。りんご園の場合、収益が出るまで10数年かかります。また、特にリンゴの場合は、売れ筋の品種が時と共に変わるので、接ぎ木などで、品種を更新せざるを得ません。それでも、1980年頃から、宮城県ではトップクラスのリンゴ栽培地に成長しました。しかし、2000年頃から中心的従事者の高齢化などで、経営継続が困難な果樹園が生じ始めました。経営困難で手入れができなくなったリンゴ園は、病虫害の伝染・拡大のもとです。伐採して果樹園を閉じなければなりません。近年は、果樹園は減少しています。
よく、アメリカのリンゴはまずいと聞きます。アメリカでは、市場での価格競争に対応するために果樹園の大型化と機械化による省力で生産コストを下げてきました。一方、日本のリンゴのおいしさは、剪定・摘果をはじめとする繊細できつい作業の積み上げで維持されています。現在、日本の農業も、農産物の国際化と少子化にさらされています。労働生産性の追求なしでは存立しえなくなって来つつあります。リンゴのおいしさは機械化にはなじまない労働集約型の農作業の結果であるとすると、農家の収益確保と流通のあり方についての公的機関による研究推進が待たれます。 (記:菊地文武 )
お知らせ
(NPO)亘理・山元町おこし振興会では、農業部門に於いては、金時草の中の 繊維の軟らかい系統の種類の一つに注目し、“伊達むらさき”と命名し商標登録を行い、その普及を追求しています。現在、数軒の農家にその栽培と販売をお願いし、東北福祉大学では伊達むらさきの薬効に注目し薬効成分分析調査を進めています。“伊達むらさき”に関心をお持ちで一緒に活動したいと希望する方は、ご一報ください。(千石信夫迄 0223-37-0010)
この資料は、山元町中央公民館、つばめの杜ひだまりホール、ふるさとおもだか館、亘理町立図書館の情報コーナーに置いてあります。手に取ってお読みいただければ幸いです。